home
 
化学関連学協会の有機的連携に関する提言−「化学連合」達成への2段階構想
 
日本学術会議化学研究連絡委員会では、化学研究の動向および関連学協会のあり方が長年主要議題の一つでありました。今回の準備委員会設置の呼びかけは、このような長期にわたる考察の結果を踏まえたものであります。

呼びかけ人 第19期(平成15−17年)日本学術会議化学研究連絡委員会
岩村秀(委員長)、赤岩英夫、安部明廣、御園生誠(委員)
化学系学協会有志 岡本佳男(高分子学会)、澤田嗣郎(日本分析化学会)
中井武(有機合成化学協会)、村井眞二(日本化学会)

提案の背景と目的
1. 化学とは(従来の姿)
化学に関する世界的な組織として最もよく知られているのは国際純正応用化学連合(IUPAC)であります。執行委員会の下に8分科会(division)と8常置委員会(committee)が設けられており、その分科会構成(図1:2004-5年版IUPAC Blue Bookより)は、化学研究の内容を説明するのによく参考にされます。化学は、物質に関する科学としての側面と同時に、実用に繋がる材料研究とも深く関わっており、裾野の広い分野であります。この意味において、化学の重要性は学問的にも、実用的にも変わることはないでしょう。だからといって、従来の化学のあり方に安住していることは許されません。化学を取り巻く内外の環境の変化、化学者コミュニティーの地殻変動など、多くの課題が顕在化しつつあります。
2. 化学の社会的な責任
国連主催の1992年リオデジャネイロ(environment and development)、2002年ヨハネスブルグ(sustainable development)の両サミットにおいて世界科学会議(ICSU)が主要な役割を果たし、その流れの中で『社会のための科学』(“Science for Society”)という概念が提唱され、科学者の 社会に対する貢献が問われる時代になってきました。学協会が主として研究者のメリットのために存在したこれまでの時代に替わって、これからは「社会のための科学」という新らしい使命をあわせ持った化学・化学技術者組織が求められているということであります。すなわち超分子、ナノ科学に代表されるように、化学の研究対象はますます複雑に先鋭化し、“先端的な専門性”が重視される一方、“社会の期待に応えるうる俯瞰的な化学”、を育てる必要にも迫られております。いずれの仕事も国際的な場の中で効率よく進めて行かねばなりませんが、あえてアクセントをつければ、前者が時に競争的な色彩が濃いのに対し、後者はより協調的といえるかも知れません。
3. 化学の国際的、地球的貢献
 化学には、従来の範囲(図1)に加えて、社会に物質・エネルギー循環に関する正しい知識を提供し、社会が直面する問題の解決に尽力する役割を期待されています。例えば、近年地球の温暖化問題への対応として各種地球観測プログラム(GEOSS、IGBP、GCP、地球シミュレーター等)が始動しておりますが、断片的な観測データを化学的な整合性の観点から解釈するのは化学・化学技術者の仕事であり、化学のあらゆる知恵を総動員する必要があります。
4. 化学者コミュニティーの構造的変化
 材料の大量消費を是とした高度成長の時代から物質・エネルギーの効率的な使用を基調とする持続性の高い社会の構築へと社会的理念が変化するのと時機を同じくして、日本では少子化による人口の減少が顕在化してきています。男女共同参画の努力など、質的な変化はあっても、旧来型の化学の延長上に化学者総数が増える要因は見当たらないようです。一方で、化学・化学技術者には従来よりも大規模、かつ困難な使命が期待されております。革新的な発想、大型の共同研究が育つ土壌としては、飛躍的に自由度が高く、懐の広い学協会組織の存在が求められているように思います。
このように、一見相異なる複数の要請、課題にうまく対応し得る組織をどう構築するか、真剣に考察した結果、現状変革の必要性を認識し、準備委員会設置の呼びかけに至った次第です。

組織
1. 再編後のあるべき姿
国際的活動には、わが国の化学者コミュニティを代表する連合組織(NAO: National Adhering Organization)の存在は不可欠です。ICSU、IUPACへの窓口である日本学術会議とも密接な協調が必要です。化学の広がり、多面性を考えると、(1)迅速な判断、執行に適した強固なコア組織と、(2)実務面でゆるやかに連携する周辺の化学関連学協会という図式が思い浮かびます。昨年10月の呼びかけの文書では、コア組織の必要性、緊急性を十分認識した上で、現実的な選択として現状から2段階で移行することを提案しました。これは大きな目標に向かって連携、連合を論ずる過程で、学協会全体にわたる俯瞰的な視点を共有することにより、従来業務の重複を減らし、学協会全体で組織のスリム化(学協会の合同も含む)を図ることも可能ではないかと考えたからであります。
2. 第一段階(助走)と第二段階(決断)
第1段階において、大枠の議論を行い、共同作業(化学からの政策提言、化学教育、有害化学物質のリスク評価、地球環境問題への貢献、化学の将来に関わる国際・学際的なシンポジウムの開催など)の必要性に関する認識を共有し、学協会連合のあるべき姿に関する合意を形成した上で、第2段階で有機的組織連携に移行するのが現実的なのかも知れません。率直に、局所的な連携の足し算では達成できない大胆な変革を期待しています。
 
改革による効果
1. 学際領域への挑戦(柔構造で幅広い議論が可能な場)
上述では主に化学・化学技術者ならびにそのコミュニティーに求められている社会性、国際性という観点から学協会の新しいあり方に言及しましたが、一方で、当然のことながら研究面でもますます有用な組織になる必要があります。学際領域の開拓には関連学協会の正しい連携が欠かせません。すなわち、上記の提案は、化学研究の一層の振興にとっても意味のあることだと思われます。要は、従来の細分化された縦型を、どうすれば縦糸と横糸の仕組み、すなわちより自由エネルギーの低いシステムに作り変えられるかの知恵が問われているのです。
2. 社会的、国際的貢献(異次元との対話)
あらゆる物質・エネルギーの循環、付随するエントロピー・エミッションなどを対象とする化学が取り組まねばならない課題は途方もなく深く、広いものであります。現状の学会組織の下では、化学・化学技術者が衆知を集めて長期にわたる課題に対して活動を継続することは至難であります。例えば、化学には資源、環境、健康、安全などの問題に関して責任のある発言が求められることが多いのですが、化学横断的に連携のとれた恒常的なシステムがあれば、十分責が果たせると思います。地球規模の活動については、日本学術会議化学委員会とともにIUPAC―> ICSU―> UNのラインを通して世界に働きかけて行くこともできます。
3. 化学者コミュニティーの進化
実験室化学を超えた貢献によって化学の役割の重要性はますます高まり、いずれ学校教育、社会教育の中でも基礎教養の基礎としても認知されるようになるでしょう。このようにして、新しいタイプの化学者も加わった幅広いコミュニティーが出来上がってくるのではないでしょうか。
 
おわりに
万世のために新しい地平を拓く
多くの提言を検討し、考察を深めれば深めるほど、化学には、日本を代表するしっかりしたコア組織(NAO)の存在が必要であるという強い確信をもつに至りました。実現までに乗り越えなければならない障壁も多くありますが、大局の認識を共有した上で、自らの力で化学者コミュニティーの組織を変革して行く勇気をもちたいと思います。各化学関連学協会には、初心に戻って、広く公論を喚起して頂くよう願う次第です。
ご賢察の上、化学連合創設に積極的にご参加頂ければありがたく存じます。